先生。~ 放課後の教室 ~

* Story 4. もう1人の想い人 *

2学期の期末考査最終日。


外は薄らと雪景色が広がっている。


灰色の空からは白くて小さな雪がゆっくりと降っていた。




3時間目。


社会のテストの時だった。


この時間は津田先生が監視担当だった。


(津田先生だ...)


視線を机の上のテスト用紙から、


教卓のそばにいる津田先生へと移す。


何かの書類をまとめているのか。


俯いていて先生の顔が少ししか見えなかった。


黒縁メガネの奥にある伏し目がちな先生の瞳。


決して大きくはないけれど、優しくて温かくて


包み込まれそうな感覚になるのを私は知っている。


・・・と、その時。



カタッ。




シーンと静まり返っている教室に響き渡る音。


誰かのシャーペンが落ちたみたい。


1人の女子が静かに手を挙げる。


音に気づいて顔を上げた津田先生がすぐに拾いに行く。


手を挙げていたのは、"池永舞衣"という女子だった。


先生は落ちたシャーペンをその女子の机の上へ


優しく置いた。


先生が置くと同時に軽く会釈をする。


そして教卓の方へ戻ると、再び先生は


作業に取りかかった。


いいなぁ。


津田先生に取ってもらえて。


私も何か落としちゃおうかなぁ、なんて


馬鹿なことを考えながらテスト用紙に


視線を戻そうとした時。


(えっ...)


表情が曇った。


さっきシャーペンを拾ってもらっていた女子が


何かを見つめていた。


その視線の先にあるのは―津田先生だった。


黙々と作業を続ける先生を、まるで眩しいものを


見るような目で見つめる。


津田先生は集中しているせいか、


じっと見つめられていることに気付く様子はない。


(なんで、そんなに見つめてるんだろ...)


少しずつ、心の中で暗い雲が大きくなっていくような。


そんな嫌な感じがした。


まさか...、津田先生のこと...。
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