*触れられた頬* ―冬―
「お、坊ちゃまはやめてください……確かに、その凪徒ですが……良く分かりましたね」
「忘れるなんてことございません。桜社長様には大変お世話になりました。それに凪徒さんのあの凛とした眼差し……お変わりありませんもの」
椿は懐かしそうに微笑んだ。
モモには相変わらず見えなかったが、母親の喜びが手に取るように感じられた。
「皆様もお変わりありませんか? あの時のご恩を仇で返すような振る舞い、お許しいただけないとは思いますが、心よりお詫び申し上げます」
「いえ、そんな……」
凪徒はそれきり言葉が続かなかった。
母はともかく兄が死んだことを、上手く伝えることが出来ない気がしたからだ。
「モスクワへはお仕事で? どのように私の所在をお知りになったのでしょうか?」
口ごもった理由に気付いた訳ではないだろうが、椿は答えを待たずに話題を変えた。
凪徒はその切り替えを良いきっかけと捉え、真っ直ぐで真摯な瞳を見せる。
「仕事の一環でもありましたが……椿さん、貴女を探しに参りました。貴女の娘さんと一緒に──」
「えっ?」
訊き返す、色を変えた椿の声。
ついにモモが母親と対面する、運命の『時』に辿り着いた──。
「忘れるなんてことございません。桜社長様には大変お世話になりました。それに凪徒さんのあの凛とした眼差し……お変わりありませんもの」
椿は懐かしそうに微笑んだ。
モモには相変わらず見えなかったが、母親の喜びが手に取るように感じられた。
「皆様もお変わりありませんか? あの時のご恩を仇で返すような振る舞い、お許しいただけないとは思いますが、心よりお詫び申し上げます」
「いえ、そんな……」
凪徒はそれきり言葉が続かなかった。
母はともかく兄が死んだことを、上手く伝えることが出来ない気がしたからだ。
「モスクワへはお仕事で? どのように私の所在をお知りになったのでしょうか?」
口ごもった理由に気付いた訳ではないだろうが、椿は答えを待たずに話題を変えた。
凪徒はその切り替えを良いきっかけと捉え、真っ直ぐで真摯な瞳を見せる。
「仕事の一環でもありましたが……椿さん、貴女を探しに参りました。貴女の娘さんと一緒に──」
「えっ?」
訊き返す、色を変えた椿の声。
ついにモモが母親と対面する、運命の『時』に辿り着いた──。