*触れられた頬* ―冬―
「母は……私の祖母──母にとっては実の母親のことですが──彼女の最期を看取る為に、その四年前ロシアに帰っておりました。音信不通だった私には何も言えずに……私が連絡をした時には、母も(やまい)に臥せっていて、もう長くはないとのことでした。……言い訳にすらならないのは心得ております。けれど母を独りにしてしまったことを、どうしても……どうしても謝りたくて。せめてもの(つぐな)いに、私も母の最期を看取ってあげたかった。死に目だけでもと! でも何があっても桃瀬を手放すべきではなかったと、今の私ならば当たり前のように思います。……結局私は弱虫だったんです。そんなことを理由に、私は日本から……貴女から逃げました。独りきりにされてしまった日本で、貴女を育てていくなんて、どうしたら良いのか分からなかった……。自分を愛してくれた母親を選んで、まだ息をすること位しか出来ない()飲み子の貴女を手放した……それでも母の葬儀が終わったら、貴女を迎えに行こうと決めていました。なのに……こんなことになって……」

 ──余りご自分を責めないでください。

 凪徒はそう言いたかったが、モモの手前何も口出しは出来なかった。

 モモが今眼前の母親をどう思っているのか分からなかったからだ。

 責めるのか、許すのか──どちらなのかも読み取れないモモの張り詰めた雰囲気に、凪徒はいつになく()くような短気は起こさなかった。


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