*触れられた頬* ―冬―
「あたしは……神様のことは分からないけど……」

 モモは既に(ぬぐ)う力のない椿のハンカチの代わりに、自分のハンカチを母親の頬に添わせた。

「もし神様がいらして、今まであたし達が離ればなれになっていたのなら」

「……なら?」

 椿の震える唇が、モモの途切れた言葉の意味を問う。

「きっと(ゆる)してくれたってこと……だよね? だったら一緒に神様に、「ありがとうございます!」って言おう、お母さん。だからもうお母さんは何も気にしなくていい、自分を悪く言わなくていい──」

「桃瀬──」

 モモはほんのり目尻に涙を浮かべて、ゆっくりニッと笑ってみせた。

 腰を上げ、正面に(かが)み込み、母親の細い首に両腕を巻きつける。

 頬に触れる柔らかな髪、匂い立つ花の香り。

 ──だって、やっと会えたんだ……ずっと会いたかった、お母さんに。

 そしてモモは心から微笑(わら)った。

 ──だって……やっと分かったのだから。



 ──あたしは、捨てられたんじゃなかった……──!



 ☆ ☆ ☆


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