*触れられた頬* ―冬―
「サーカスで私のことを聞いたのですね? 私も未だこちらに暮らしていた小さい頃、良く祖父に連れられてショーにも楽屋にもお邪魔致しました……まだユーリーが団長になる前のことです。彼のピエロ芸には大変楽しませていただきました。祖父は自分の演舞を見たことのない団員達にも「伝説のブランコ乗り」として知られておりましたので、亡くなった今でも内輪では語り草のようです。お陰様で大人になって帰国しても……こんな身体でも、オールド・サーカスのスタッフとは仲良くさせていただいているのです」

「はぁ……ああ──」

 感心と感激と驚愕と……沢山の想いが溢れ出た大きな溜息をついて、凪徒も黙ってしまった。

 目の前の母娘(おやこ)がロシア貴族の血を持つことだけでも仰天の域であるのに、その血筋に「伝説のブランコ乗り」と言われた人物が存在するなんて──。


< 126 / 238 >

この作品をシェア

pagetop