*触れられた頬* ―冬―

[33]サーカスとサプライズ

 劇場へ続く清潔で明るいホールは、昨日も見た通り沢山の人で溢れ返っていた。

 幾つか種類のあるパンフレットの中の、写真付きで立派な冊子と一番手頃な物を買う。ゾウやトラ、オランウータンなど動物達と写真を撮る子供達や、見学しようと集まった群衆の中を、二人は惜しみながらもすり抜けた。

 入場口をくぐった途端現れた赤く丸いテントのような場内は、広過ぎず狭過ぎず、ショーを(じか)に肌で感じられそうな心揺さぶる空間だった。(註1)

 席には近さに応じて幾つかのグレードがあるが、二人は空中ブランコも良く見られるように、中間の高さの席を選んでいた。

 間もなく開演だ。

 あの珠園サーカスのショーを初めて見た時のワクワクした期待感が、二人の心を虹色に染め上げていった。

 演目は各十分~十五分程度で、動物を中心にしたショーが多く、鳥やプードル、馬の曲芸、特にゾウのこなす軽業(かるわざ)は素晴らしかった。

 あの巨体が小さなボールの上で静止したり、台の上で蛙立(かえるだ)ちをしたり……他にも人間による玉乗りやアクロバティックな演舞も多い。


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