*触れられた頬* ―冬―
「あ、秀成? 凪徒だけど、リンは退院したか?」

『凪徒さん……は、はい、母子共に無事でした! あっ──』

「ぼ、母子とか……言ったか、お前……」

「え?」

 電話の向こうの秀成の答えに、凪徒は鬼の形相を見せた。

 もちろんその姿は秀成には見えていないのだが、明らかに(おび)えているのが、聞こえなくともモモには感じられた。

「おっ前……自分が何やらかしたか分かってるんだろうなぁ!?」

『ひっ、ひ~! わ、分かってます! ちゃんと真っ当に立派な父親になります!!』(註1)

 ──秀成君とリンちゃんが、パパとママに……?

 モモは驚きながらも心底嬉しく思った。

 そしてベビー用のお土産をもう一点増やさなければと。

「まず『約束』を破ったこと。盲腸だと嘘ついたこと。最後に、テント内に携帯持ち込んだこと。以上三点のデコピン、帰国後確定だ! 覚悟しとけよっ!」

 ──『約束』?

 モモは凪徒の(いか)りにまみれた言葉の初めに引っ掛かったが、

『凪徒さんが、ロシア滞在中はいつでも連絡取れるようにしとけって言ったんじゃないですか~! ……で、でも、デコピンは受けて立ちます! 僕も父親ですから!!』

 微かにモモにも聞こえる秀成の真っ直ぐな声に、モモも凪徒も、秀成の決意の強さを感じ取った。


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