*触れられた頬* ―冬―

[42]高揚と二人の手 〈N♡M〉

 休憩時間が終わりを告げた。幕の合わさる隙間から、遠くに椿とカミエーリアが見える。

 一度館内が暗くなり、ステージの真ん中をスポットライトが照らし出した。

 それはゆっくり奥へと移動して、少女を隠す幕を目指した。

 綺麗なドレープを描く布地が上がり、光はモモを包み込んだ。その瞬間に助走をつける。

 珠園サーカスでの登場と同じく、側転やバク転を繰り返し、普段ならバク宙でセンターまで躍り出るところを月面宙返り(ムーンサルト)で合わせてみせた。

 ──お、おい……あいつ、はしゃいでんのか? やり過ぎだっちゅうのっ!

 いつもと同様支柱の上で待つ凪徒は、その様子を見下ろして、心の中でツッコミを入れた。

 この五日間まったくブランコに乗らなかったのだ。

 リハーサルを無事終えたとは云え、仕上がりきれていない身体でいきなり盛り上げ過ぎだろうと、モモのハイテンションに(おのの)き、落ち着いてくれよと祈ってしまった。

 モモが深く一礼を捧げ頭を上げた頃には、椿の周囲にはぞろぞろと団員達が集まり始めていた。

 皆二人の演舞を堪能しようと、ブランコのサポート役と音響照明係以外は、静かに見やすい席へと着いた。


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