*触れられた頬* ―冬―
「お母さん……先輩のお父さんが、お母さんを見つけた時、お腹の中のあたしに歌ってたって言っていたの。それを歌ってもらえる、かな」

 椿の起毛の上着が心地良く、モモは小さく息を吐いて瞳を閉じた。

「コサックの子守唄ね……あんまり明るい歌ではないけれど、私も小さい頃に良く聞かされて、何となく口ずさんでいた覚えがあるわ」

 椿はモモの髪を優しく撫でた。やがて美しい声で(ささや)くように奏でられた。



「スピー ムラヂェーニツ モーィ プリクラースヌィ
 バーユシキ バィユー
 ティホー スマトリーッ ミェースャツ ヤースヌィ
 フ・カルィビェール トヴァィユー
 スターヌゥ スカズィヴァーチ ヤー スカースキィ
 ピィスェーンクゥ スパィユー
 トィ ジ ドリェームリ ザクルィーフシィ グラースキィ
 バーユシキ バィユー……


(おやすみ、私のかわいい赤ちゃん
 ねんねん、おころりよ
 輝くお月様が、静かに
 あなたの揺りかごを覗いているわ
 お話をしましょう
 お歌を歌いましょう
 目を閉じてお眠り
 ねんねん、おころりよ……)」



 モモは母親の太腿(ふともも)の上で、柔らかな眠りの中へ落ちた──。


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