*触れられた頬* ―冬―

[44]会いたかった理由と隠された願い

 ──夢……? 先輩の声が聞こえる……。

 モモは闇の中でうっすら(まぶた)を開いた。

 ぼやけた視界には何も見えなかったが、やはり微かに凪徒の透き通る声が耳に響いていた。

 枕から少し首をもたげ、アコーディオン・カーテンの裾の隙間に見える、リビングから(こぼ)れる灯りに目を向ける。

「すみませんでした……「お嬢さんが寝入ったら連絡を」なんて、面倒なお願いをしまして」

 ──え?

 凪徒の申し訳なさそうな小声に、モモの意識は鮮明さを取り戻した。

「いいえ。わざわざ足を運んでいただいてしまいまして、こちらこそ申し訳ございません。サーカスの皆さんとのお邪魔にはなりませんでしたか?」

 椿の声もモモに配慮しているのか、(ひそ)やかに(ささや)かれた。

「明日も公演がありますからね、そう長くは引き伸ばさずに解散しました。椿さんも、モ……あ、いえ、お嬢さんともっと話をしていたかったのではないですか?」

「子守唄を歌ってほしいとお願いされて、そうしている内に眠ってしまいました。きっと色々と緊張して疲れたのだと思います。それから……どうぞ気にせず『モモ』と呼んでやってください。その呼び名が一番あの子らしいのでしょうから」

「はい……」


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