*触れられた頬* ―冬―
 『春の誘拐事件』で、あんなに心配してくれて、必死にあたしを探してくれていた。

 『夏の失踪事件』で、あたしの為に、行きたくない道も受け入れようとしてくれた。

 先輩こそが思いやりを持って、他人のあたしの為に犠牲になろうとしてくれたんじゃない! 今回だって……どれだけの愛情を貰ったんだろう……なのに、あたしは──。



 ──先輩のことが……やっぱり、全部大好きだ……!!



 涙の(こぼ)れるスピードが速過ぎて、モモは全てを(すく)えなかった。

 嗚咽(おえつ)になりそうな唇を噛み締めて、それでも波打つ肩は止められずにいた。

 ── 一緒にいたい。ずっと一緒に。ブランコに乗っていたい──先輩と!

 何とか静かに身を返し、布団の中で身体を丸める。

 ──だけど……ごめんなさい、さよ……なら……あたしの初恋──。

 椿が戻ってくるまでに、この涙の海は乾くだろうか……そんなことを心配しながら、モモは頬を濡らしたまま深い淵へと漂っていった──。


< 184 / 238 >

この作品をシェア

pagetop