*触れられた頬* ―冬―
 それを暮も気が付いたのか、いきなり凪徒の首に手を回し、いやらしそうにニヤニヤと(わら)い出した。

「で? モスクワでなんか進展はあったか? 部屋は一つで十分だった~なんてことなかったのか!?」

「アホか、お前」

 暮の回した手首を(つか)み、凪徒は顔色を変えぬまま、それを骨格的に無理な方向へと捻じ曲げた。

「いででっ、怒んなよー凪徒! お前にも『約束』があるのは分かってるけどさ~秀成も破っちまったんだから、お前も続いちまえば? あ、でももうすぐ、か? そう言えばモモの本当の誕生日分かったのかよ?」

「うっせえ、お前が何も教えないのに、誰が教えるかよっ」

 ──『今日』、だけどな……。

 凪徒は暮を解放して、衣装室を出ようと立ち上がった。

 其処へ暮が今一度呼び掛け、何かが弧を描いて放り投げられた。

「お前今週点検当番~昨日は代わりにやっといてやったから、今日から宜しくな!」

 凪徒の手には鍵の束が握られていた。

「何だよー俺、休みもらってんだぞ?」

「それはそれ、これはこれ! んじゃ頼むな~」

「へいへい」

 凪徒はいつものヘの字顔で部屋を後にした。


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