*触れられた頬* ―冬―
「でも……」

 自分の世界に満たされていた凪徒を、洸騎の再びの声が打ち破る。

 (うつむ)いていた顔が凪徒の目線まで上がり、不敵な笑みを見せた。

「モモはもう僕のこともまんざらではないかもしれませんよ? 『あの時』──僕がキスしようとしたあの時……モモは「良いよ」とも言わなかったけれど、「嫌だ」とも言わずに僕に身を(ゆだ)ねましたから」

 ──!?

「あ……あの時?」

 さすがの凪徒も声を打ち震わせてしまった。

「僕達の街での公演初めての日曜日。施設の皆とモモを訪ねた後……『此処』で」

 洸騎の右手指先が、この会議用プレハブを意味するように足元を指差した。

「キス……したのか?」

 否定の返事を祈りつつ、凪徒の振り絞られた問い掛けに、

「……しましたよ」

 洸騎は嘲笑(あざわら)うように(つぶや)いた──。


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