＊触れられた頬＊ ―冬―
　杏奈の視線を感じた隼人は、

「三ツ矢も桜もその分野はまだまだ底が浅くてね……これからの未来を築いてくれるのは子供達なのに、育(はぐく)む為のフィールドが整っていないと、以前から懸念はしていたんだ。ある程度の情報と知識は此処数年で収集し、基盤と云える物は出来始めたから、そろそろ動き出したいと……そうした上でのご提案──と申しますか、ご協力を仰ぎたいのですが……早野園長、貴女の児童養護施設も、弊社の事業計画にご賛同いただけませんでしょうか？」

「「「えっ──」」」

　と手渡された内容に応え、依頼した桜社長の熱意のある言葉に、再び三人は開けた口を閉じることが出来なかった。

　しかし。

「それは……桜コーポレーション様の管理下に置かれる、ということでございましょうか？」

　数秒寡黙に俯(うつむ)き、辛そうに顔を上げた園長の声は仄(ほの)かに掠(かす)れていた。

「現状継続も危ういわたくし共には、とても魅力的なお申し出ではございますが……申し訳ございません。私は……自分の経営方針を桜様のお考えに合わせられるとは、お約束出来かねます」

「母さんっ……」

　園長は再び口元に力を込め、自身の持つ強い意志を露わにした。

　茉柚子は折角のチャンスをと、途端に内から溢れ出す焦燥を母親にぶつけたが──


< 221 / 238 >
表紙・目次

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop