*触れられた頬* ―冬―

[55]与えられた力と返された光

「さ、モモちゃん、身体起こして……どうかしたの?」

 杏奈は目の前で、二つ折りのまま微動だにしないモモの背中にそっと触れた。

 (いざな)うように肩の前側を優しく押し上げ、モモはやっと顔を上げたが、その表情は随分と思い詰めていた。

「あの……あたし、このままで……こんなまんまでいいんでしょうか?」

「え?」

 特に杏奈へ向けられた訳ではなく発せられた涙声。

 視線は(うつ)ろに落とされて、震える唇は心のつかえを吐き出した後、キュッと噛み締められた。

「どうして、そんな風に思うの?」

 折り畳み椅子の方が座高が高い為、杏奈はソファに浅く腰掛けたまま、長い(まつげ)を濡らして揺らすモモの瞳を見上げた。

「あたし……杏奈さん達にも、施設の先生方にも、サーカスのみんなにも……ずっと助けてもらってばかりで……何も返せていなくて。これからも……返せる物が見つかる自信がないんです……」

 両膝の上で握られた拳が、更に(きし)んでいく。

 ──ずっとずっと励まされてきた、助けられてきた……でも……それに(こた)えられている自分がいない──


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