*触れられた頬* ―冬―
 前髪を上げられ、首も見上げるように角度をつけられ、そして──

「いっっ!! ……たく、ない……?」

 確かに何かが額に触れたが、それは柔らかく一瞬で、すぐに視界を機能させてみたものの、もうその時凪徒の身体は数歩先で背中を向けていた。

「……これ以上、俺を不安にさせるなっ」

 あちらを向いたまま、放たれる叫び。

「……はい……あの、すみません、でした……」

 モモは心が持っていかれたように凪徒の(もと)へ一歩を踏み出したが、凪徒はそれを制止するかの如く、顔だけを少し振り向かせた。

「コウキって奴が会議室で待ってるから、そいつに事の顛末(てんまつ)を話してやれ。それと……誕生日……おめでとうな」

「あっ──」

 照れたように上空を見上げたのち立ち去る凪徒を、モモは声を掛けられないまま見送った。

 やがてゆっくりと右手を上げて、何かが触れた地点を指先で辿(たど)る。


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