*触れられた頬* ―冬―
「あ……」
その時モモは、昨春の誘拐予告が出された夕、夫人と凪徒の練習風景を見ていた自分に、暮が教えてくれた『夫人の想い』を思い出した。
「あの……あたしも誰かと一緒になったら、空中ブランコを怖いと思うようになるんでしょうか?」
「え?」
モモはあの時の暮の言葉を夫人に説明した。
『男性は家庭を持つと、それを養う為にまた精を出す──力が出る。でも女性は……それを守る為に、闘争心は母性に変わり、自分が傷つく危険を恐れるようになる──それを感じたんだそうだ』
「それはどうかしらね……」
照れ隠しするように俯いて、ティーカップの取っ手を撫でる夫人。
おもむろに顔を上げ、
「きっと人それぞれね。私は少なくともそうであったけれど、モモちゃんがそうだとは限らないわ。さっきの男性の態度も同じこと。私は鈴原の押しの強さを嬉しく思えたけれど、モモちゃんは洸騎君のそれを良しとしなかった……でも分かるの、男性の強引さが効き目を見せるのは、相手の女性に好きな人がいない時よ。モモちゃんには……ちゃんと好きな人がいるものね」
「え……?」
真っ直ぐで真摯な夫人の瞳に、モモは何かを貫かれたような気がした。
「……はい」
モモが初めて凪徒への想いを、自分以外に伝えた瞬間だった──。
その時モモは、昨春の誘拐予告が出された夕、夫人と凪徒の練習風景を見ていた自分に、暮が教えてくれた『夫人の想い』を思い出した。
「あの……あたしも誰かと一緒になったら、空中ブランコを怖いと思うようになるんでしょうか?」
「え?」
モモはあの時の暮の言葉を夫人に説明した。
『男性は家庭を持つと、それを養う為にまた精を出す──力が出る。でも女性は……それを守る為に、闘争心は母性に変わり、自分が傷つく危険を恐れるようになる──それを感じたんだそうだ』
「それはどうかしらね……」
照れ隠しするように俯いて、ティーカップの取っ手を撫でる夫人。
おもむろに顔を上げ、
「きっと人それぞれね。私は少なくともそうであったけれど、モモちゃんがそうだとは限らないわ。さっきの男性の態度も同じこと。私は鈴原の押しの強さを嬉しく思えたけれど、モモちゃんは洸騎君のそれを良しとしなかった……でも分かるの、男性の強引さが効き目を見せるのは、相手の女性に好きな人がいない時よ。モモちゃんには……ちゃんと好きな人がいるものね」
「え……?」
真っ直ぐで真摯な夫人の瞳に、モモは何かを貫かれたような気がした。
「……はい」
モモが初めて凪徒への想いを、自分以外に伝えた瞬間だった──。