*触れられた頬* ―冬―

[15]凪徒のツボと暮のツボ

 モモは今にも目の前の筋肉質な腕にしがみついて、「お願いします!」と涙で訴えそうな勢いだった。

 これを(のが)したらきっともう凪徒と旅することなんてない……例え団体の慰安旅行でさえも。

 自分は珠園サーカスの一員ではなくなるのだから──そう思えば思うほど、その先にどんなに辛い現状が待っているとしても、この旅をどうにか実現させたくなった。

「べ、別に、そんなに頼まれなくたって、行ってやるけどさ……」

 凪徒は根負けしたように(つぶや)いたが、モモが嬉しそうに礼を言って頭を深く下げると、照れ臭そうにそっぽを向いた。

「もちろんメインはモモの母親探しだが、()くまでも表向きは『研修旅行』だ。オールド・サーカスのチケット取ってやるんだから、ちゃんと勉強もしてこいよ?」

 団長はようやくまとまったロシア行き決定に満足な様子を見せ、渋い顔をしていた凪徒もその台詞(セリフ)を聞いて目を輝かせた。

「ニクーリンに行けるんですか!? なら話は別だっ」

「ニクーリン?」

 モモは急に乗り気になった凪徒の嬉しげな顔を不思議そうに見上げた。


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