*触れられた頬* ―冬―

[19]茉柚子とモモ

 無料なのを良いことに、アルコール類をおかわりしまくる凪徒と、映画を鑑賞しつつも、つい唖然と隣の様子に見入ってしまうモモが、夜空の旅路を楽しんでいる(?)頃、暮は──。



「お待たせしてしまってすみません~!」

 待ち合わせ場所に直立して十五分、遅れてきたことを詫びながら駆け寄った茉柚子を、晴れやかな笑顔で迎えていた。

「い、いえ! 自分もまだ着いたところであります!」

 息つきながら笑みを返す茉柚子に、思わず敬礼する暮。完全にイカレている。

「それじゃ……行きましょうか?」

「は、はい!」

 茉柚子はそんな暮を(なご)やかな表情で(いざな)った。

 この街は自分の方が知っているのだからと、予約をしてくれたレストランで、サーカスの話・(えん)の話に盛り上がり、もちろんモモの『兄』として誘いを掛けた暮は、モモの施設での様子も問い掛けた。

「そうですね……何て言いますか、モモって──」

 その質問に茉柚子は、しばし想い出の中を漂うように、視線を()らして小首を(かし)げた。


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