*触れられた頬* ―冬―
「き、綺麗な夜景ですねっ……」

 食事を終えた暮と茉柚子は、高層のシティホテル最上階バーにいた。

 煌めく景色を眼下に見下ろす窓際のカウンターに並んでいた。

「気に入っていただけて良かったです」

 暮は本来、レストランでお茶でも飲みながらのお喋りが終われば、茉柚子を送ってサーカスに戻る予定だった。

 が、茉柚子が「お酒は飲めますか?」と尋ね、「知人が会員証を持っていて」と借りてきたカードを見せた為、泊まらずともこうしてお洒落なバーにて、鮮やかなカクテルなんぞを傾けているのだが──。

 ──まさか一度目のデートで、誘われてる訳じゃあないよな?

 階下がホテルだと思うと、ついそんな都合の良い想像をしてしまう。

 ──何で明日が移動日なんだよぉ!!

 折角お近付きになれたというのに、明日はもう別の街だ。

 実際二人が遭遇したのは先週の日曜だが、お互い同時に時間の取れる夜がなく、街を離れる前夜の今日まで会うことが叶わなかった。

「何だか……少し酔ってしまったかも……」

 三杯目の空いたグラスをカタンと鳴らし、転がったライムがその中を舞った。

 茉柚子は(ほの)かに()だるい声で、暮の左肩に頬を預けた。


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