*触れられた頬* ―冬―

[24]意外な理由と意外な顔

 二人は宿に帰って作戦を練り直し、まずは近場からと、歩行者天国で賑わうアルバート通りへ探索を進めた。

 日本人が立ち寄りそうな日本食レストラン・日本食材店・日本人御用達の土産店などに片っ端から立ち寄っては『山科 椿』という名を尋ねる。

 が、誰一人知る者はおらず、母親の手掛かりは何も得られないまま、捜索一日目を棒に振った。

 翌日の午前もちらちらと小雪が舞う中を、赤の広場を抜け、団長が勧めてくれたニクーリン・サーカスを目指した。

 道中気になる店を(のぞ)いては店主に質問したが、全員が首を(かし)げるか横に振るばかりであった。

「モスクワなんてでっかい街から、こんなやり方で見つけられるとは思えねぇな……」

「すみません、先輩。……あたしの為に……」

 隣を歩く高い位置から白い息と共に、手詰まり感が否めない(つぶや)きを吐き出す凪徒。

 モモも成す(すべ)のない自分を情けなく思い、ただ謝ることしか出来なかった。

 それと同時に思ってしまう──本当にこの街に、お母さんはいるのだろうか?


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