*触れられた頬* ―冬―
「俺はニクーリンに来たかっただけだから、何も気にすんなよ。後で雀が丘展望台辺りも探しながら、ボリショイ・サーカスにも行くか? 向かいにモスクワ大学もあるし、それなりに日本人も多いだろ?」

「はい……ありがとうございます……」

 モモは凪徒の少し慌てたような慰めの言葉に、感謝を見せながらも罪悪感を隠せなかった。

 ついいつもの凪徒みたいにヘの字の口元になりそうな自分に気付き、慌てて顔を足元に向ける。

「別に……。それに俺もお前の母さんには会いたいんだ」

「え?」

 その二の句にモモは今一度顔を上げた。けれど凪徒の横顔は引き締まったまま前方を見据えていて、問い掛ける余地を与えてはくれなかった。



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