気高きホテル王は最上愛でママとベビーを絡めとる【極上四天王シリーズ】

動けと命じ、アスファルトからなんとか足を引きはがす。車まであと少しだと、顔を俯かせて早歩きをした。

――ところが。


「美織……?」


気づいたその人物が、カートを押す美織の腕をいきなり掴んだ。


「――っ」


体の奥で神経が小さく震える。手を振り解こうにも、驚きと戸惑いで力が入らない。

困惑した表情で美織を見つめるのは、世界各地にラグジュアリーホテルを中心に展開する『ラ・ルーチェ』グループの御曹司、瀬那(せな)史哉(ふみや)だった。およそ三年前に別れた恋人である。

切れ長でありながら優しげな目元に、自然と口角の上がった唇。それらが形作る容貌は男らしさと、そこはかとない色気が漂い、眉にさらりとかかった黒髪が理知的な雰囲気を引き立てている。

三十三歳になってもなお、整った甘いマスクは変わっていない。当時から類稀な容姿をしていたが、精悍さが増し、大人の男の魅力にさらに磨きがかかっていた。
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