気高きホテル王は最上愛でママとベビーを絡めとる【極上四天王シリーズ】
美織は、注視していなければ見過ごしてしまいそうなほど小さく頷いた。
「そっか。だからこのところ様子が少しおかしかったのね」
「すみません」
「やだ、美織さんが謝ることじゃないでしょ。ふたりの間になにがあったのか聞いてもいい? もちろん無理にとは言わないけど」
初めて会ったときと同じ、優しい眼差しだった。
シングルマザーとして生きていくと決めたはずなのに、大きなお腹を抱えて不安いっぱいだったあの頃。渚は今のように聖母のような目をして美織に微笑んだ。
『なにかあったら遠慮しないで私に頼ってね』
その言葉の通りなにかにつけて助けてくれた渚に、美織は史哉との間にあった出来事をぽつぽつと話しはじめた。
もう遠い過去。吹っ切ったはずの思い出が、口にするたびに胸を震わせる。
彼の元を去って以降、誰にも打ち明けずにきた話はまるで昨日の出来事のよう。彼とののろけ話を友人にしているように錯覚した。