気高きホテル王は最上愛でママとベビーを絡めとる【極上四天王シリーズ】
水族館でお昼を食べたときの史哉を思い返す。彼は自分が食べるのも忘れて、陽向が食べる様子を眩しいものでも見るような眼差しで見ていた。
まだ上手に使えないフォークを使ってナポリタンを食べる陽向は、美織からするとヒヤヒヤ。ときに手を使うため、洋服にべったりとケチャップがついたり、テーブルや椅子を汚したりするため、違う意味で目が離せないのだ。
でも彼は、陽向が美織のお腹にいるときはもちろん、生まれてから二歳半になるまでの成長をいっさい見られなかった。だから陽向のやることなすことすべてが愛しいのだろう。
それを遠ざける真似は酷だ。
「そうですね。そうしてください」
「それじゃ約束しよう」
車が赤信号で止まり、史哉が小指を立てた右手を差し出す。
バンクーバーで指を絡めた〝指切りげんまん〟を思い出し、胸が切ない音を立てた。
「手、出して」
史哉が望んでいるのは、陽向との食事。そこに他意はないのに、甘い誘いに聞こえる耳が恨めしい。
おずおずと出し、史哉の小指と絡め合う。青信号に変わると同時に離れた指先に、史哉のぬくもりがほんのり残った。