気高きホテル王は最上愛でママとベビーを絡めとる【極上四天王シリーズ】
「美織はほんとに……。その素直さはつくづく凶器だな」
「ナイフより切れ味がいいですか?」
「その凶器じゃない」
ふたりが同時に漏らした笑みで空気が優しく振動する。美織を引きはがした史哉と間近で絡んだ視線は、ジョークをものともしない甘さを秘めていた。
どちらからともなく唇を重ねる。やわらかな感触が、バンクーバーで初めてキスをした夜を思い出させた。
想いを打ち明け合い、離れ難さに身を焦がしたあの夜と同じ。明日の午後には史哉と離れ離れになる。
それが自分の決めた夫婦の形なのに、一度ぬくもりを知ってしまうと切なさに胸が悲鳴を上げる。唇の表面を啄んでは吸い上げる優しいキスがもどかしい。
「……史哉さん、もっとして」
愛しさが恥ずかしさを上回る。
さらに深く、ずっと奥まで史哉を感じたい。空白の時間を埋めるにはそれでは足りない。
「望むところだよ。場所を変えよう」
「ひゃっ」
美織をひょいと抱いて史哉が立ち上がる。そのまま階段を上り、ベッドルームに足を踏み入れた。