気高きホテル王は最上愛でママとベビーを絡めとる【極上四天王シリーズ】

優しいひと言を置き、拓也は再び奥へ戻った。

やわらかさと硬さが絶妙に共存するガラス細工の世界は、美織が幼い頃からすぐそばにあった。祖父が営むガラス工房は家から歩いて五分の場所にあり、形を変えていくガラス細工を時間も忘れて眺めていたものだ。

ペンションを営む両親が忙しかったせいもあるだろう。学校からランドセルのまま工房に直行し、夜遅くまで入り浸った。

一四〇〇度の溶解炉で溶かし、吹き竿に巻き取ったガラスは、祖父の辰雄が息を吹き込むとみるみるうちに膨らんでいく。どんな形も彼の手にかかれば変幻自在。作品は無限に生み出される。

その動作は軽やかでリズミカル。流れるように自然と、徐々に成形されていくグラスや器から目が離せなかった。それはまるで魔法のようにも見えたものだ。


「ふたつとして同じものが存在しないのがいいのよねぇ。ゆくるさんのものはインターネットでも取り扱いがないでしょう? だから余計に希少価値が高いのよ」


辰雄や美織の作品が買えるのは、工房とコレッタのみ。それを目当てに沖縄を訪れる人もいると聞くから、とてもありがたい話だ。
ネット販売を試みようとした時期もあるが、発送の手間などを考えてあきらめた。その時間を制作にあてたほうがずっといい。
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