気高きホテル王は最上愛でママとベビーを絡めとる【極上四天王シリーズ】
しかし彼の名前をタップする一歩手前で指を止める。
「電話じゃなくて、直接話そう」
大事な話だから顔を見て話したい。電話では彼の些細な反応も聞き漏らしてしまうだろうから。声だけでなく、表情の変化のひとつだって見逃すわけにはいかない。そのくらい深刻な事態が起こっているのだ。
スマートフォンを再びバッグに入れ、美織はアパートを出た。
帰国して二カ月が経った今も、史哉はホテル住まいを続けている。部屋探しもしているようだが、希望通りの物件が見つからないらしい。
この二カ月ですっかり通い慣れたホテルの最上階を目指し、いつものようにエレベーターに乗り込む。ゆっくり上昇していくのに合わせて心拍数が上がるのを感じていた。
(中絶してほしいって言われたらどうしよう。普通に考えたら、いきなり子どもなんてやっぱり困るよね……)
交際期間の短さや確証のない未来が、美織の心を大きく乱す。
――でも。
彼が帰国したこの二カ月、愛情を疑うことは一度もなかった。結婚という言葉こそないが、ふたりの愛は本物だと自信を持って言える。