気高きホテル王は最上愛でママとベビーを絡めとる【極上四天王シリーズ】
振り返りながら答えようとした美織は、〝工房を閉めるんです〟という言葉を飲み込まざるを得なかった。
三日前に再会した史哉が立っていたのだ。
ほうきとちり取りが手から落ち、カタンと音を立てる。美織はその場で棒立ちになった。
先日会ったときはスーツ姿だったが、今日は薄いブルーのシャツにホワイトチノパンというカジュアルなスタイルだ。それでも今をときめくホテル王の気品は隠しきれていない。
雑多な工房に不釣り合いの華麗なる姿だった。
ボートネックのTシャツにベージュのクロップドパンツという、同じくカジュアルな装いの美織だが、引け目を感じて一歩退く。
「美織、少し話せないか」
今さらどうして。
絞り出すようにした彼の切実な声の理由が、美織にはわからない。
再会は偶然。ふたりの間には、その後に続く未来はないはず。たまたま顔を合わせただけだった。
そもそも遊びだと言ったのは史哉のほう。それなのになぜ、今頃になって追いかけてくるのか。
突然の彼の来訪に動揺した心臓が、不規則なリズムを刻みはじめる。約三年前、ホテルで盗み聞きしたやり取りが蘇り、締めつけられた胸が苦しい。