気高きホテル王は最上愛でママとベビーを絡めとる【極上四天王シリーズ】
妊娠を告げようと滞在先のホテルを訪れたあの日、史哉は美織がふたりの会話を盗み聞きしていたことは知らない。美織にはあのまま立ち去る以外にできなかったから。
でも、心あたりもないなんてどうかしている。どこかで自分の本音や嘘がバレてしまったのではないかと疑いもしないのか。
(どうしてそんなに苦しそうな顔をするの)
つらいのは美織のほうだ。
「僕がキミを傷つけるようなことをしたのなら教えてほしい。どこかでゆっくり話そう」
あの頃と同じ穏やかな口調に絆されそうで怖い。誘われるまま、ふらりとなびいてしまいそうな自分が嫌になる。
でもそうはいかない。史哉はただ、美織が姿を消した理由を知りたいだけ。それはたぶん、自分から振るはずの女に振られたのが許せないだけだ。
未練でも恋慕でもない。世界に名を馳せるホテル王のプライドを守るために。
「美織、お客さんかい?」
ギャラリーに行っていた辰雄が、首から提げたタオルで顔を拭きながら現れる。史哉をお客さんと勘違いしたようだ。