気高きホテル王は最上愛でママとベビーを絡めとる【極上四天王シリーズ】

辰雄は、美織と史哉の間に流れる不穏な空気を感じ取ったのだろう。心配そうな表情から言葉の先が読めたため、先走って訂正してごまかす。

祖父母には陽向の父親に関する情報はなにひとつ教えていない。どんな人物なのか、どうして別れたのか、すべてを美織の胸の内にしまい込んだままにしてきた。
ただ子どもだけはあきらめられないから、どうしても産みたいと必死に説得したのだ。


「今の人、前にもここへ来たことがあるわよね」
「……え?」


悦子のひと言に思考が寸断される。

(前にも……? 史哉さんがここへ?)

思いも寄らない話だった。


「ああ。美織を訪ねてきたが、ここにはいないと帰ってもらった。沖縄に越してきて間もなくだ。美織が民宿に滞在していたときだったな」


美織は当時、祖父母に『もしも誰かが訪ねてきても知らないって言ってね』と強く念を押していた。
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