ふたりは同じ日、恋におちた。


あの時、面と向かって言えなかったお礼を今日こそちゃんと伝えるんだ。


よしっ!と心の中で気合を入れ直していると、下駄箱に一人で現れた岬先輩。

私は先輩が靴を履き替えるのを待った後、勇気を振り絞って声をかけた。


「あ、あの……!岬先輩」

その声に振り向いたのは岬先輩と周りにいた複数の生徒達。

こんなにも多くの人の視線を集めるのは初めてだ。

それだけ周りが興味を持ってるということ。

もちろん、私じゃなくて岬先輩に。


「……あ、昨日の。保健室の」

足を止めてくれた先輩はそう口にする。

“鼻血の”じゃなくて、“保健室の”。

そういう言い方をしてくれる人が冷たい人だなんて、やっぱり思えない。



「き、昨日はありがとうございました。私、2年の宮崎花梨っていいます。これお菓子とパンなんですけど、もしよかったらお礼に貰って下さい」

深々と頭を下げ、お菓子とパンが入ったビニール袋を差し出す。

カサカサと袋が擦れる音がするのは私の手が緊張で震えているからだろう。


「お礼って俺なにもしてないけど」

その袋は受け取られる様子がなく、私はゆっくりと顔を上げる。

「テッシュ……を開けてくれました」

「それだけじゃん」


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