ふたりは同じ日、恋におちた。
目が離せなかった男
【目が離せなかった男】
─岬奏多の場合─
彼女から目が離せなくなったのは、その純粋な心に惹かれたからだと思う。
「私、岬くんのことが好きなんだけど。今って彼女いる?いないなら私と付き合わない?」
入学して早々、知らない先輩から好きだと言われた。
「すみません。俺、先輩のことよく知らないんで付き合えません」
そう返事をしたら、どうやら先輩のプライドを傷つけたようだ。
『お前みたいな奴、知らないから付き合えない』って言われた。
そんな風に話を誇張され、それがそのまま広がったのだ。
それから似たようなことが続く。
下駄箱を開けると一斉に雪崩落ちてくる手紙の山。
それを持っていたビニール袋に入れたら、なせがまとめて捨てたと勘違いされた。
鞄ではなく、ビニール袋に入れたのがまずかったのだろうか。
多分、違うな。俺の表情筋が乏しいことも関係しているのだろう。
中学でも似たようなことを経験していた俺はその噂をわざわざ自分から否定することはなかった。
仲間が信じてくれればそれでいい。
むしろ、それが女避けになるならその方がいいとさえ思っていた。
女性不信とまではいかないけれど、それに近いものを感じている時だった。
彼女と出会ったのは───。