ふたりは同じ日、恋におちた。
その日は朝から体調が悪くて、授業はほとんど耳に入らなかった。
やっとマシになり、帰ろうとした放課後。
俺は奇妙なものを見かける。
それは、
「み、岬先輩!」
俺の名前が書かれた下駄箱相手に話しかける一人の女の子。
手には手紙とラッピングされた何か。
噂が広まった今でも下駄箱には手紙や贈り物が入れられてある。
なんだったら直接話しかけてこなくなった分、増えた気がする。
彼女も用が済んだら、すぐに立ち去るだろう。
そう思いながら、その姿を遠目に観察することにした。
「つい調理実習で作ったマフィン持ってきちゃったけど、やっぱり手作りのお菓子なんて迷惑だよね。既製品の物を用意すれば良かった」
迷惑っていうか、どうしたらいいのか困る。
大半は名前すら書かれていないから。
「そもそも下駄箱に食べ物ってどうなんだろう」
それな。
手紙ならまだしも下駄箱に食べ物を突っ込むのは正直やめて欲しい。
「やっぱり持って帰ろう。勝手に開けるのも失礼だし。それに、私の勘違いかもしれないもんね」
下駄箱に話しかけていた彼女はそう言うと、突然真面目な顔をして手を合わせた。