スパダリとはなんぞ?
職場で、ふと知らない言葉が耳に入ってきた。
「スパダリ」
使い方は、「〇〇さんの彼氏スパダリだってよ」「スパダリほしい」「ウチの部署スパダリいないから異動したい」とかみたいだ。
そんな言葉を使っているのは、いつも完璧に頭のてっぺんから爪先まで綺麗に決めている系の女性社員たちだ。
そんな彼女たちの仲間内にしか通じない言葉なのだろうか。だとしたら私にわからないのは仕方ない。
ウチの会社は、男性も女性も無駄にキラッキラしたエリートばかりの企業だ。
美男美女だらけなのに、みんなガチで仕事が早いし頭の回転が早い。
だから、仕事を押し付けられることもなく、残業に追われることもないのはありがたい。
だが、美男美女たちがいっつもギラギラ恋人探しに明け暮れている場所にいるのは平凡代表としては気まずいのだ。
そんな風に考える私は、「本当何でここの企業受かっちゃったんだろう」と私すら思うほどこのキラッキラワールドから浮いている地味な女だ。
お給料がよかったのとちゃんと休みが取れそうだから、なんて理由でエントリーシートを出したら受かってしまった。
ここにいれば私もキラキラになれるのでは、なんて勘違いして早五年。
まあ、仕事は人並みにできる。
そんな私は二十七歳。恋愛戦線からは完全に離脱している。
それにしても「スパダリ」か……。
「スパ」と「ダリ」で分けられるのだろうか。
温泉やら療養施設のスパ?
スパゲッティー?
スパイ?
スーパー?
では「ダリ」は?
芸術家のサルバドール・ダリ?
ダリル、なんて名前の俳優さんはいそうだ。
お花のダリア?
だるいの若者言葉のだりぃ?
どうだろうか。「スパダリ」は特定の何かではなさそうだ。あの女性社員たちの会話を聞く限り、「人」である。
スーパー・ダリ?
すごい作品を作ってくれそうだが、そんな人は一人でもいたら世界中から注目を浴びるはずだ。同じ部署にも違う部署にもいないだろう。それとも、本当は天才の内気な男性に、変なヒゲとか生やさせてプロデュースしたいということか? 超有能は女性社員たちならやりかねないがどうだろう……?
保留にして他の可能性を模索しよう。
では……、スーパーだりぃ、はどうだろうか。超だりぃ。人のことを指す場合は、超だりぃ奴、という意味だ。例文に当てはめてみると、「〇〇さんの彼氏超だりぃ奴だってよ」「超だりぃ奴ほしい」「ウチの部署、超だりぃ奴いないから異動したい」となる。
ふむ。違いそうな気がして来た。
超だりぃ奴なんて、側にいたらうっとうしいだけだろう。
いや、今の何でもできる大人の女性は、超だりぃ奴が好みなのかもしれない。
ふーむ。だとしたら、ウチの会社で「スパダリ」を探すのは難しいと思う。みんなハイスペックだ。ナルシストでドン引きな人やウザい人はいても「超だりぃ奴」はいないと思う。
いやいや、ハイスペックなイケメンの中にある「超だりぃ」ところを探して愛でるのかもしれない。
ハイスペックな美女たちの好みは難しい。
「高木さん、何難しそうな顔してるの?」
声を掛けてきたのは同期の藤原君だ。地味系メンズだからと美女たちからは視野に入れられていないが、気遣い上手で優しい人である。
藤原君は、スーパーダリでも超だりぃ奴ではない。私の会社の中での数少ない友人だ。
「他の人たちが話してた、『スパダリ』について考えてたの」
「スパダリか……。高木さんもスパダリが好み? 完全無欠なハイスペック男性ってことだよね」
「……え?」
私の解釈とは全然違うではないか。「スーパーダーリン」なのか? 彼氏を超越した存在、超彼氏と言うことなのか? 自力ではたどり着けない解答だ。
英語でダーリンは女性にも使うが、この場合は男性にしか使わないのだろうか。では対になるのは「スーパーハニー」、略して「スパハニ」になるだろうか。なんだか美味しそうだ。
「スパダリって、高学歴高身長高収入、もちろんイケメンで、優しくて包容力があって察しが良くてぐいぐい引っ張ってくれる、だっけ? 本当女性は男に多くを求めるよね……」
藤原君は過去に何かあったのだろう、とても憎々しげで悲しげにそう言った。
「藤原君は割とその条件満たしてると思うけど」
超有名な外国の大学卒業の高学歴だし、同じ会社だから割と高収入だ。身長は百八十センチ弱くらいだから十分高い。こんなぼっちで地味な私に声を掛けてくれるくらい優しいし、仕事では周囲の意見を取り入れる包容力を見てつつも、ちょっと強引なところもあったりするが周囲に受け入れられるタイプだ。
顔は、さっぱり系と言うか薄いと言うか……。私からすれば十分整っていて綺麗だと思うが、キラッキラした派手なイケメンとは違うのだろうか。
「俺は昔から、女性陣に身長ギリ足りないからアウトとか、イケメン度が微妙に足りないとか、オーラがないから失格、とか言われ続けてるんだよね。高木さんは優しいな……」
小学生の時に男子たちがクラスの女子たちに点数を付けていたことがあった。
その紙には、一番モテる女子が百点で、私は三点と書かれていた。
私は無駄にショックを受けた。他人から勝手に評価されて見下され、無駄に傷付けられるのは本当に不快なものだ。
「それはとても失礼だね。藤原君は私からすれば十分スパダリだよ」
男性とロクに話をしたこともない私が気負いをせずに話せているのは、藤原君が男らしさを振りまくこともなく優しく接してくれているからだ。
「……あ、ありがとう。あのさ、今日仕事終わったら夕食一緒にどう?」
「うん、行こう!」
私を仕事終わりに誘ってくれるのは藤原君だけだ。私が誘えるのも藤原君だけだ。
女性社員たちとも仕事場では普通に会話はする。
しかし、彼女らは、合コン、デート、エステ、脱毛、ネイルサロン、コスメの新色やブランド新作のチェックと忙しそうにしている。それに、食事と言っても、SNSで映えそうなキラッキラしたオシャレな人しかいない、オシャレなカフェやレストランばかりで居た堪れない。
だから、一緒に夕飯なんて行けないのだ。
男性社員は、高身長のイケメンが多いのは確かだが、キラッキラというよりギラッギラして女性を見定めている感出し過ぎで怖い人が多い。第三者として見ているだけなのに超怖い。私なんて三点以下扱いで、存在すら無視されているから怖がる必要もないとは理解している。
「ふう……」
もうすぐお昼休みが終わる。
よし、仕事モードに切り替えよう!
ふっふふーん。
今日は、藤原君と何を食べに行こう。
前に行ったチャーハンが美味しい町中華でもいい。ナポリタンが具沢山で美味しかった個人経営の喫茶店にはまた行きたい。激辛なのにもう一口食べたくなるカレー屋もいい。
そうだ、会社の近くにできたイタリアンはどうだろう。焼き立ての窯焼きピザが売りらしい。今朝通勤時に割引き券付きのチラシをもらった。それを見るとお値段もお手頃だ。焼き立てピザはどんな店でもそれなりに美味しいだろうし、ピザは好きだ。
前に藤原君の好きなマンガと宅配ピザがコラボした時、「一人じゃ食べきれないくらい注文する一緒に食べてほしい」と頼まれたことがある。藤原君の家にお呼ばれして二人でピザをたくさん食べた。
藤原君はすごく幸せそうにピザを食べていたから、絶対ピザが大好物のはずだ。
ちなみにその後はお泊まりした。
急なゲリラ豪雨……、ゲリラ豪雨は全部急だから……急な豪雨で帰宅出来なくなって、「な、な、何もしないから泊まって行きなよ……」と言われたからだ。
シャワーを借りて、藤原君の服を借りて着た。
ワンルームで、ベッドとソファー、お互いがどちらで寝るかを揉めた結果、二人でベッドで寝た。
正直、私はあの時初めてを迎えるのかと心臓が破裂しそうだった。
しかし、藤原君は即寝落ちしたのだ。
そんな藤原君にくっ付いてみて、私は藤原君ならいいのにな、なんて馬鹿なことを考えた。
藤原君は私をそんな目で見ていないのに。
私にも優しいのなら、全女性に優しいと思うのだ。
だから私は、自分の初めて抱く気持ちを名付ける前に仕舞い込むことにした。
そんなことを思い出しながらも、私はちゃんと定時に仕事を終わらせられるのだ。
「スパダリ」
使い方は、「〇〇さんの彼氏スパダリだってよ」「スパダリほしい」「ウチの部署スパダリいないから異動したい」とかみたいだ。
そんな言葉を使っているのは、いつも完璧に頭のてっぺんから爪先まで綺麗に決めている系の女性社員たちだ。
そんな彼女たちの仲間内にしか通じない言葉なのだろうか。だとしたら私にわからないのは仕方ない。
ウチの会社は、男性も女性も無駄にキラッキラしたエリートばかりの企業だ。
美男美女だらけなのに、みんなガチで仕事が早いし頭の回転が早い。
だから、仕事を押し付けられることもなく、残業に追われることもないのはありがたい。
だが、美男美女たちがいっつもギラギラ恋人探しに明け暮れている場所にいるのは平凡代表としては気まずいのだ。
そんな風に考える私は、「本当何でここの企業受かっちゃったんだろう」と私すら思うほどこのキラッキラワールドから浮いている地味な女だ。
お給料がよかったのとちゃんと休みが取れそうだから、なんて理由でエントリーシートを出したら受かってしまった。
ここにいれば私もキラキラになれるのでは、なんて勘違いして早五年。
まあ、仕事は人並みにできる。
そんな私は二十七歳。恋愛戦線からは完全に離脱している。
それにしても「スパダリ」か……。
「スパ」と「ダリ」で分けられるのだろうか。
温泉やら療養施設のスパ?
スパゲッティー?
スパイ?
スーパー?
では「ダリ」は?
芸術家のサルバドール・ダリ?
ダリル、なんて名前の俳優さんはいそうだ。
お花のダリア?
だるいの若者言葉のだりぃ?
どうだろうか。「スパダリ」は特定の何かではなさそうだ。あの女性社員たちの会話を聞く限り、「人」である。
スーパー・ダリ?
すごい作品を作ってくれそうだが、そんな人は一人でもいたら世界中から注目を浴びるはずだ。同じ部署にも違う部署にもいないだろう。それとも、本当は天才の内気な男性に、変なヒゲとか生やさせてプロデュースしたいということか? 超有能は女性社員たちならやりかねないがどうだろう……?
保留にして他の可能性を模索しよう。
では……、スーパーだりぃ、はどうだろうか。超だりぃ。人のことを指す場合は、超だりぃ奴、という意味だ。例文に当てはめてみると、「〇〇さんの彼氏超だりぃ奴だってよ」「超だりぃ奴ほしい」「ウチの部署、超だりぃ奴いないから異動したい」となる。
ふむ。違いそうな気がして来た。
超だりぃ奴なんて、側にいたらうっとうしいだけだろう。
いや、今の何でもできる大人の女性は、超だりぃ奴が好みなのかもしれない。
ふーむ。だとしたら、ウチの会社で「スパダリ」を探すのは難しいと思う。みんなハイスペックだ。ナルシストでドン引きな人やウザい人はいても「超だりぃ奴」はいないと思う。
いやいや、ハイスペックなイケメンの中にある「超だりぃ」ところを探して愛でるのかもしれない。
ハイスペックな美女たちの好みは難しい。
「高木さん、何難しそうな顔してるの?」
声を掛けてきたのは同期の藤原君だ。地味系メンズだからと美女たちからは視野に入れられていないが、気遣い上手で優しい人である。
藤原君は、スーパーダリでも超だりぃ奴ではない。私の会社の中での数少ない友人だ。
「他の人たちが話してた、『スパダリ』について考えてたの」
「スパダリか……。高木さんもスパダリが好み? 完全無欠なハイスペック男性ってことだよね」
「……え?」
私の解釈とは全然違うではないか。「スーパーダーリン」なのか? 彼氏を超越した存在、超彼氏と言うことなのか? 自力ではたどり着けない解答だ。
英語でダーリンは女性にも使うが、この場合は男性にしか使わないのだろうか。では対になるのは「スーパーハニー」、略して「スパハニ」になるだろうか。なんだか美味しそうだ。
「スパダリって、高学歴高身長高収入、もちろんイケメンで、優しくて包容力があって察しが良くてぐいぐい引っ張ってくれる、だっけ? 本当女性は男に多くを求めるよね……」
藤原君は過去に何かあったのだろう、とても憎々しげで悲しげにそう言った。
「藤原君は割とその条件満たしてると思うけど」
超有名な外国の大学卒業の高学歴だし、同じ会社だから割と高収入だ。身長は百八十センチ弱くらいだから十分高い。こんなぼっちで地味な私に声を掛けてくれるくらい優しいし、仕事では周囲の意見を取り入れる包容力を見てつつも、ちょっと強引なところもあったりするが周囲に受け入れられるタイプだ。
顔は、さっぱり系と言うか薄いと言うか……。私からすれば十分整っていて綺麗だと思うが、キラッキラした派手なイケメンとは違うのだろうか。
「俺は昔から、女性陣に身長ギリ足りないからアウトとか、イケメン度が微妙に足りないとか、オーラがないから失格、とか言われ続けてるんだよね。高木さんは優しいな……」
小学生の時に男子たちがクラスの女子たちに点数を付けていたことがあった。
その紙には、一番モテる女子が百点で、私は三点と書かれていた。
私は無駄にショックを受けた。他人から勝手に評価されて見下され、無駄に傷付けられるのは本当に不快なものだ。
「それはとても失礼だね。藤原君は私からすれば十分スパダリだよ」
男性とロクに話をしたこともない私が気負いをせずに話せているのは、藤原君が男らしさを振りまくこともなく優しく接してくれているからだ。
「……あ、ありがとう。あのさ、今日仕事終わったら夕食一緒にどう?」
「うん、行こう!」
私を仕事終わりに誘ってくれるのは藤原君だけだ。私が誘えるのも藤原君だけだ。
女性社員たちとも仕事場では普通に会話はする。
しかし、彼女らは、合コン、デート、エステ、脱毛、ネイルサロン、コスメの新色やブランド新作のチェックと忙しそうにしている。それに、食事と言っても、SNSで映えそうなキラッキラしたオシャレな人しかいない、オシャレなカフェやレストランばかりで居た堪れない。
だから、一緒に夕飯なんて行けないのだ。
男性社員は、高身長のイケメンが多いのは確かだが、キラッキラというよりギラッギラして女性を見定めている感出し過ぎで怖い人が多い。第三者として見ているだけなのに超怖い。私なんて三点以下扱いで、存在すら無視されているから怖がる必要もないとは理解している。
「ふう……」
もうすぐお昼休みが終わる。
よし、仕事モードに切り替えよう!
ふっふふーん。
今日は、藤原君と何を食べに行こう。
前に行ったチャーハンが美味しい町中華でもいい。ナポリタンが具沢山で美味しかった個人経営の喫茶店にはまた行きたい。激辛なのにもう一口食べたくなるカレー屋もいい。
そうだ、会社の近くにできたイタリアンはどうだろう。焼き立ての窯焼きピザが売りらしい。今朝通勤時に割引き券付きのチラシをもらった。それを見るとお値段もお手頃だ。焼き立てピザはどんな店でもそれなりに美味しいだろうし、ピザは好きだ。
前に藤原君の好きなマンガと宅配ピザがコラボした時、「一人じゃ食べきれないくらい注文する一緒に食べてほしい」と頼まれたことがある。藤原君の家にお呼ばれして二人でピザをたくさん食べた。
藤原君はすごく幸せそうにピザを食べていたから、絶対ピザが大好物のはずだ。
ちなみにその後はお泊まりした。
急なゲリラ豪雨……、ゲリラ豪雨は全部急だから……急な豪雨で帰宅出来なくなって、「な、な、何もしないから泊まって行きなよ……」と言われたからだ。
シャワーを借りて、藤原君の服を借りて着た。
ワンルームで、ベッドとソファー、お互いがどちらで寝るかを揉めた結果、二人でベッドで寝た。
正直、私はあの時初めてを迎えるのかと心臓が破裂しそうだった。
しかし、藤原君は即寝落ちしたのだ。
そんな藤原君にくっ付いてみて、私は藤原君ならいいのにな、なんて馬鹿なことを考えた。
藤原君は私をそんな目で見ていないのに。
私にも優しいのなら、全女性に優しいと思うのだ。
だから私は、自分の初めて抱く気持ちを名付ける前に仕舞い込むことにした。
そんなことを思い出しながらも、私はちゃんと定時に仕事を終わらせられるのだ。
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