冬の月 【短編】
*
その日も僕の路上のお客さんは栞ただ一人だけだった。
一通り唄い終わった後、僕はいつもと変わらず狭い階段に申し訳なさそうに座っている彼女の隣に座った。
「あの…曲ってどうやって作ってるんですか?」
その日は珍しく栞の方から口を開いた。
『え!?そうだな…ふとした時に頭に浮かんだり…ギターのコードを適当に弾いてそれにメロを乗せたり…』
彼女はフムフムと相づちを打ちながら僕の話を聞いていた。
そんな彼女の仕草が気になって訊いてみた。
『どうして?音楽始めるの?』
彼女は笑ってごまかしながら答えた。
その笑顔は照れ隠しのようにも見えた。
でもそれはつまり、裏を返せば”音楽を作る”ということに興味を持ったということなのだ。