冬の月 【短編】


「いえいえっ…そ、そうじゃないんですけど…ただ…」


『ただ?』


「ただ…ちょっと興味でてきたかなあ?って」


彼女のその言葉は嬉しかった。

つまり栞は、少なくとも僕の影響を少しでも受けて音楽に興味を持ち始めたということなのだ。

僕にも誰かに影響を与えることが出来た…そのことが嬉しかった。


『あ、例えばさっ…』


そう言って僕は立ち上がり、5メートル先に置いてあるギターを手に取り、また彼女の隣に座った。


『例えば…う~ん、そうだな…例えばだよ?』


「あ、はい…例えば!!ですね?」


そう言って栞は笑った。

僕はその場で、とりあえず何も考えずにDのコードをジャラーンと鳴らしてみた。

そこからA、Bmとコードを続ける…。

何度もコードチェンジを繰り返し、頭の中で色々なメロディを連想する。

すると、ある瞬間、それはまるで奇跡のように、僕の頭の中に一つのメロディが降りてきた。

僕はその歌詞のないメロディを、鼻歌を唄う様にラララで声に出してみた。

なんとなく透明感がある綺麗なメロディだった。

そしてそのメロディは、今のこの寒い冬の…月夜によく似合う、切ないけれど温かいメロディのように感じられた。




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