冬の月 【短編】
「…いい」
栞のそっと囁くような声が聞こえて、僕はギターを止めた。
『なんかいいね…このメロディ』
「うん…」
『ほんとに?』
「はい…なんだか温かくて…落ち着きますよね?」
『うん…僕もそう思った…』
「すごい…こんなに簡単にできちゃうんですか?曲って…」
『そんなことないよ…いつもはもっと悩んで、時間も掛かるし』
「そうですよね?でも…」
それから僕は、何度も何度もその歌詞のないメロディを繰り返しラララで唄った。
栞との時間の中で舞い降りてきた…その奇跡のメロディを。
何度も何度も…繰り返し繰り返し…。
そして、栞はずっと黙ったまま…そのメロディに耳を傾けていた。
静まり返った駅ビルの片隅…そのメロディだけがいつまでも流れていた。
その時、青白く照らされていた彼女のシルエットはすごく綺麗で…僕はラララを口ずさみながら、ゆっくりと夜空を見上げた。
二人の真上の夜空には雲一つなく、ただ綺麗な満月が輝いて揺れていた。
まるで…
今の二人を包み込むように…
ただ月は輝いていた。
それは君が笑ったように…。