冬の月 【短編】
* 5 *
僕と春樹のユニット「ハルヒト」は、路上初日からたくさんの人を集めた。
それは、春樹の元々の知名度が高かったというのもあったが、それだけではなかった。
彼がギターを弾くのを辞めて、唄に専念したことによってその歌唱力が更にレベルアップしたことが大きな要因だった。
それに、彼のソングライティングにも素晴らしいものがあった。
彼の曲は、ちょっと懐かしい90年代を感じさせるようなキャッチーなメロディでありながらも古さを感じさせない、今のポップな曲調と上手く融合させてあるのだ。
それは一度聴いたら耳から離れない、思わず口ずさんでしまうようなメロディだった。
そして、「ハルヒト」の噂は口コミでどんどん広がっていき、結成からわずか1か月で、路上でのお客さんの数は100人を超えるようになった。
それには周りはともかく、僕たち自身が一番驚いた。
正直、こんなに早いスピードで、こんなに人気がでてくるとは思ってもみなかった。
春樹は「やっぱり人時さんと組んでよかった」と喜んでいたが、僕はこの1か月必死だった。
春樹の歌唱力、そして彼が作ったメロディに負けないギターアレンジを作るというのは大変な作業だったし、またそれを演奏するのにも相当な技術が必要だった。
僕は自分の限界を感じていた。
でも逆に、これだけたくさんの人に聴いてもらえることに自信と誇りも感じていた。