冬の月 【短編】
演奏中の僕は、ギターと楽譜から目が離せない。
曲が進む中、僕はずっと栞のことを考えていた。
彼女はずっと聴いてくれているのだろうか…
路上が終わってから、話すことが出来るのだろうか…
一曲の演奏が終わってチラッと顔を上げた時、彼女が居たはずの柱の傍に、栞の姿はすでになかった。
ただの偶然だったのだろうか…
たまたま通りすがりで…僕たちが路上をしていたから…
気になって仕方がなかったが、彼女のために路上を中断するわけにはいかない…。
とりあえずお客さんが集まっている以上、僕は演奏に集中することにした。
*
路上が終わってすぐ、僕はギターだけをケースに仕舞って栞を探し始めた。
とにかく話がしたい。
なんでもいいから話がしたい。
僕は広い駅ビルの中を必死で、ただ栞の姿だけを探した。
そして、たくさんの人たちが改札に向かって歩く中で、僕は彼女の後姿を見つけた。
『栞ちゃん!!』
僕は大きな声で彼女の背中に声をかけた。
一瞬、体をビクッとさせて振り返った彼女は、やっぱり栞だった。
「人時さん…」
『久しぶり…』
「はい、お久しぶりです」
そう言って彼女は小さく会釈し、笑顔を見せた。
『よかった…まだ居てくれて』
「はい…」
彼女は小さく頷いた。
『どうしてすぐに帰っちゃうの?』
「え?…もう路上は終わったんですよね?」
『終わったけど…前みたいにさ』
「そんな…悪いですよ。他にお客さんいっぱい居るのに」
『そんなこと…あ、路上は?聴いてくれてたの?』
「はい、聴いてましたけど…」
『けど?』
「けど…もう来るのやめにします…。」
『え?…どうして?やっぱり僕が…』
「人時さん…今、路上やってて楽しいですか?」