冬の月 【短編】
「歌詞じゃないですか?…」
春樹が後ろから覗き見していたらしく、そう言った。
『歌詞!?…っていうか勝手に読まないで下さいよ!』
「ごめんごめん(笑)でも…いい詞ですね。これはあのいつも来てた子が書いたんですか?」
その便箋に綴られた言葉達は、僕が栞に書いて欲しいとお願いした…
僕と彼女の二人の時間に降りてきた、あの奇跡のメロディの歌詞だった…。
僕はその詞を見ながら、頭の中でメロディに乗せ唄ってみた。
すごく心地いい…。
彼女と二人だけで過ごした時間が蘇ってくる…。
同時に、心の奥に仕舞いこんだはずの気持ちが抑えきれずに、それは涙というカタチで溢れ出してきた。
心臓が高鳴り、僕は熱い息を一つ吐いた…。
グッと閉じた瞼の縁から涙が滲み出て、やがて頬をゆっくりと伝う。
俯いて奥歯に力を入れて溢れる涙を堪えようとする。
でも、そうすればするほど涙はとめどなく溢れてくるのだ。
やがて、その涙は栞がくれた便箋を濡らし始めた。
パシャパシャと、便箋が音を立てて僕の涙を受け止める。
それは、ここに書かれた栞の思いが僕の涙を拭ってくれているように思えて、僕の涙はしばらく止まることがなかった。