冬の月 【短編】
『え?』
僕は視線を手に持っていた便箋にもう一度移し、何度も読み返した。
春樹は再び機材の片付けの手を動かし始めた。
彼女の書いたこの詞が…もし本当に僕に対する彼女の気持ちの全てだとしたら…。
そう思うとそれは僕の胸の中…それはとても深いところから、何とも言えない感情が急激に溢れ出して来た
そして、僕の震えは止まらなかった。
しばらくして春樹が口を開いた。
「人時さん?…”ハルヒト”は今日で解散します…。」
僕は便箋から顔を上げ、変わらぬペースで機材の片付けを続けている彼の方を見た。
『…春樹さん?今なんて?』
「だから…解散しましょうって言ったんですよ」
『な、何言ってるんですか…”ハルヒト”はこれからじゃないですか…
なのに…なんで突然…』
「人時さん…暇な時、俺にギター教えて下さいねっ!!人時さんに教えてもらったら上手くなれそうな気がするんですよ!!(笑)」
『…それ本気で?』
彼は手を止めて顔を上げ、僕の方を見て一度微笑んだ。
「唄いたいんでしょ?もう一度…」
そう言って僕を見る彼の目は、今まで一度も見たことがないくらい真剣な眼差しだった。
その目の奥に迷いや戸惑いは全く感じられなかった。
『え?…』
「知ってましたよ…人時さんが唄好きなこと。」
『春樹さん…』
「ちょっと前から考えてたんですよ…。
それにほら…その曲もあの子に唄ってあげないとね」