天狗一族総帥の一途な求婚~君と甘い口づけを~
「ううん。叔父さんたちにインターフォンを確認してからじゃないと玄関に出ちゃだめって言われてるから」

「え~厳しい! ちっちゃい子どもがピンポンして、カメラに写ってないだけかもしれないじゃん! 一回外に出て見てみればすっきりするかもよ?」

 比子が言うのもわかる。だが、一人で家にいるときばかりインターフォンと電話が鳴らされるので、ドアを開ける勇気はなかった。

 せめて那智が一緒にいるときに来てくれれば、と思うのだが、図ったように一人で家にいるときばかりなのだ。

「いや……小さな子どもがこの家に何度も来る理由がないだろ? それにこの家、何台もカメラがついてるから全方位確認できるんだよ」

 那智がそう言うと、比子は納得できないような顔で唇を尖らせた。

「え~でもさ、見えないから怖いって思うんじゃない? 実は風でインターフォンが鳴ってたとか。なにか飛ばされてきたとかさ、はっきりすればなんでもないことかもしれないじゃん」

「比子の言うとおり、誰もいないのにインターフォンが鳴るって思うから怖いのかも。こういうのって本当は大した原因じゃない場合が多いもんね」

 なにかが風に飛ばされてインターフォンが鳴る。というのも偶然が続いたと考えれば可能性はゼロではない。
 電話だって本当にただのいたずら電話かもしれない。

 それを超常現象とか、誰かの悪意だと考えている方がおかしいのではないか。そう考えると、少しだけ気分も軽くなった。

「いや、用心に越したことはない。鈴鹿、インターフォンが鳴ってカメラに誰も映ってなかったら絶対に出るなよ?」

「でも……那智と一緒にいるときならいい?」

「それならいいけど。俺がいるときは不思議とないんだよなぁ」

「叔父さんたちが家にいるときもないの?」

 比子に聞かれて、頷いた。

「叔父さんたちは仕事でほとんどいないから偶然かもしれないけど、ほかにも友達が来てる今みたいな時とかはないの。なんだか常に見張られているような気がして、よけいに気持ち悪くって」

 比子は「やだぁ、怖い」と言いながらも、さほど言葉に重みはなく、十枚以上のクッキーを両手に持ち次々と減らしていった。比子のこういう適当さに救われる気がする。

「そういえば話は変わるけど。那智さぁ、今年は里帰りしないの? 去年までは夏休みは毎年本家だかなんだかに行ってたよね」

 那智はちらりと鈴鹿を見てから、視線を比子に戻して答える。
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