カレンダーガール
周りの家族も何事かと遠巻きに見ているし、師長も看護師も頭を下げ続ける。
時間が経っても事態は変わらないままで、その様子にたまりかねた私はお父さんのもとへ歩み寄った。

「お父さん。みんなお子さんを心配しています。ご心痛はお察ししますが、その思いは同じですよ」
「いくら綺麗事を言ったって、先生も他人じゃないですか。他人に何が分かるんですか。結局背負っていくのは家族なんだ」
興奮のせいか、お父さんの声も大きくなる。

「じゃあ、赤ちゃんの気持ちはどうなんですか?家族、家族って言いますけど、赤ちゃんにだって気持ちはあります。それはどうなるんですか?」

つい、つい、言ってしまった。
又、感情に突っ走ってしまった。
しかし、私には後悔する時間はなかった。

「鈴木先生」
冷たい声。

振り返ると、無表情の剛先生がいた。

「もういいから」
腕を引かれ、保育器から離された。

まだ、小児科勤務になって数週間しかたっていないのに、またしてもやらかしてしまった。
剛先生の後ろで背中を見つめながら、私はただただ自分の未熟さを呪った。

その後、剛先生は時間をかけてお父さんと話し合い、誤解を解いた上で前向きに手術を考えるとの約束を取り付けた。
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