カレンダーガール
その日は大きな急変も緊急入院もなく穏やかに午前中が終わったため、私は早めの時間に休憩室へ向かった。
院内のコンビニで購入したお弁当をひろげて味噌汁を温める。

「桜子先生。森先生とランチじゃないんですか?」
意地悪そうな果歩先生の声。

周りのスタッフは聞こえないふりをしてくれているけれど、敵意むき出しなのは明らか。

「今日はお弁当の気分なのよ」
「けんかですか?もしかして、別れたんですか?」
「はあ?」
思わず睨んでしまった。

「そう言えば、森先生がお見合いして結婚するらしいって父が言ってましたよ」

え?
そう言えば、果歩先生の実家は地元の開業医。
父親はうちの大学の臨時講師もしている。

「果歩先生。噂なんて、当てになりませんよ」
果歩先生横柄な態度が頭にきていたのは私だけではないようで、見かねた看護師がフォローしてくれたけれど、
「父が言うんだから、噂じゃないですよ。お見合いの話は本当にあるんですから」
看護師を睨みながら、さらに言う。
なんだか、そこにいるみんなが嫌な気分になってきた。

「果歩先生。みんな休憩しているんだから、噂話はやめましょう?たとえそれが事実でも、本人のいないところですれば噂話だから」
精一杯平常心を装って、私は出来るだけ穏やかに話したつもりだった。
でも、
「なんだか余裕ですね?でも、気をつけた方がいいですよ」
吐き捨てるように言うと、果歩先生は休憩室を出て行った。
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