カレンダーガール
当直明け。
私はいつも通り日勤帯の勤務に就き、昼食を紗花と職員食堂でとった。

昨夜の当直も、急患や大きな急変もなく穏やかに終わった。
しかし、頭の中は昨夜のお母様からの電話のことでいっぱい。
もし『別れてくれ』なんて言われたら、私はきっと何も言えないだろう。

「桜子。ねえ、桜子」
呼ばれたことに気が付いて顔を上げると、ランチを食べる紗花の手が止まっていた。

「あ、ごめん」
「何ボーッとしてるのよ。考え事?」
「まあね」
考えることがありすぎて、何を考えたらいいのかさえ分からない。

妊娠。
仕事。
そして・・・

「桜子、森先生と結婚するのよね?」
「へ?」
思わず間抜けな声を出してしまった。

妊娠すれば、結婚の話が出るには当然。でも、具体的には何も話していない。

「紗花は春からも外科に残るの?」
わざとらしく話を変えてみた。
「まあね。私は内科も小児科も向かないから。外科で頑張るわ」
付け合わせのサラダを頬ばりながら、私のランチにまで手を伸ばす紗花。

ああ、うらやましい。
私だって本音を言えば、紗花のようにガツガツ食べて元気に医者としてのキャリアアップを考えたかった。

「桜子は小児科に残るの?」
「他に行き先がないからね」
ちょっと自虐的に笑ってみた。

もうすぐ新年度になる。
長かった研修医生活もやっと終わるって、同期達の多くは医師として新しい勤務先に赴任する。
しかし、私はこのままこの病院の小児科で勤務することを希望した。
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