カレンダーガール
運転席から身を乗り出した明日鷹が、私を抱き寄せた。

「桜子。不満なのは分かるけれど、何もかも思い通りには行かないよ。みんなそれぞれの思いがあるんだから。家の両親は俺の将来を心配して早い時期に海外留学させたがっているし、恩師やお世話になった先輩方も、医師としてのキャリアを心配して色々言ってくださっている。君のお母さんだって、君のために『子供は自分が育てるから桜子は仕事を続けなさい』なんて言ったんだろう?」

それはそうだけど、
分かってはいるけれど、

「だからって、何でアメリカなの?子供が生まれるのに、離ればなれにならなくちゃいけないの?うちの病院に残れないの?」
まるで駄々っ子みたいに、私は文句を言った。

困ったように私を見る明日鷹。

「どうしようもないんだ。出来ればもう少し病院に残りたかったけれど、赴任先の状況や俺の年齢を考えたら、今しかないんだよ。それでも断わるなら、病院を辞めるしかない」

病院を辞めるなんて・・・
そりゃあ、いつかは実家の病院へ戻る可能性もあるかもしれないけれど、今じゃない。
明日鷹は患者さんからも人気があるし、カメラの腕もいいし、難しい手術だってたくさんやっている。
もし今の病院を離れて別の病院に移ったら、検査や内視鏡手術の件数だって減るはず。
それは彼の望むキャリアではない。
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