カレンダーガール
その後、家に帰ってもなかなか寝付けなかった。

医師として、母として、妻として、すべてを求めるのは無理。
そう言った、お母様の言葉が頭をよぎる。
今私が一番に考えないといけないことは・・・子供のこと。
でも、その為にすべてをあきらめられる?
そんな私を彼は望んでいない。
いくら考えても、答えは出ない。


ブブ ブブブー

ん?
病院からの着信。
時計を見ると午前4時。
私は反射的に起き上がった。

こんな時間にかけてくるのは緊急事態。
受け持ち患者の急変とか・・・

「もしもし」
『桜子先生?夜分にごめんね』
電話の向こうから剛先生の声。
「何かありました?」
『うん。健太くんが急変したんだ』
え、嘘。

健太くんは、私が初めて受け持った患者。
昨年6月、検診も受けずに飛び込み出産した双子の1人。
一緒に生まれた弟くんはちょっと体重が足りないくらいですぐに保育器を出たけれど、健太くんはへその緒を首に巻いた為に後遺症が残ってしまい人工呼吸器が必要になった。
両親も初めのうちは毎日病院に来ていたけれど、
いつの間にか週末だけになって、最近はあまり顔を見ることがなくなっていた。

「先生。来られる?」
剛先生が申し訳なさそうに聞く。
「はい。支度してすぐ出ます」
生まれたときから見守ってきた患者の最後は立ち会いたい。
「無理しないでね」
「大丈夫です」

5分で支度して私は病院に向かった。
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