カレンダーガール
普段15分かかる道を10分で病院に到着。
NICUに入ると、スタッフと両親が健太くんを囲んでいた。

「桜子先生」
目に涙を浮かべたお母さんが振り返る。
「遅くなりました」
私も健太くんの元へ向かう。

今にも消えそうな心拍を機械が拾っている。
もう、時間がない。

私は側に寄り、健太くんの頭をなでた。
小さな体で精一杯生きようとする健太くん。

そして、
しばらくして、心拍が・・・止まった。

泣き崩れるお母さん。
私も泣きそうになった。
でも、泣かない。私が泣いたらダメ。

「お世話になりました。ありがとうございました」
お父さんが頭を下げる。

看護師の手によって健太くんの体からチューブが外され、お母さんが抱っこする。
健太くんにとっては初めての抱っこ。
なんだかとても切ない気持ちになった。

その後、用意された個室で家族と過ごす。
部屋には普段NICUには入れない一卵性双生児の弟くんもいた。
小さな歯も生え、つかまり立ちもする。
とっても笑顔がかわいい。

さっきまで泣いていたお母さんも、弟くんをあやしながら笑顔を見せる。

医療にもしもはないけれど、
もし、お母さんがきちんと定期検診を受けていたら、出産時のトラブルだって避けられたと思う。
そう考えるとたまらない。

私はその日、初めて受け持った患者を看取った。
< 242 / 248 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop