カレンダーガール
トントン。
誰もいないことが分かっていてもついノックしてしまうのは、いつもの癖。

主のいないはずの部屋に入って、
「えええー」
私は思わず声を上げた。

だって、目の前に明日鷹がいた。

「何でそんなに驚いてるの?」
「だって」
ここは剛先生の医局。
それに、夜中に険悪なまま別れたのに。

「何してるの。ほら、座って」
点滴の用意をしながら、私を促す明日鷹。

「もしかして、怒ってます?」

夜中に駆け付けたことは知っているはずだし、さっきから顔が怖い。

「正直気分は良くないな。なんと言っても君は妊婦なんだし、もう少し自分の体を気遣って欲しい。でも、医者を妻にしようと思ったらあきらめないといけないのかもしれないね」」
私の手を消毒しながら、複雑な表情。

優しい言葉を選んでくれているところが明日鷹らしいけれど、夜中に呼び出されて仕事に行く妊婦とか、夜勤で帰ってこない奥さんとか、約束がいつドタキャンになるか分からないお母さんとか、最悪だものね。

ん?
今、『妻にしようと』って、

「せ、先生」
「バカッ。動くな。針が刺さるぞ」
「ごめんなさい。でも今・・・」

彼はとっても上手に点滴を刺してくれた。
ソファーに私を寝かせタオルケットを掛けると、向かいの椅子に移る。

「本当は昨日言うつもりだったのに、喧嘩別れみたいになって言えなかったから」
そう言うと白衣のポケットから小さな箱を取り出す。

これって・・・
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